脱炭素化におけるGHGプロトコルとは?日本の「温対法」との違いやグローバル企業に対応が求められる規格やルール、排出量算定の具体例、各種ガイドライン、Terrascope(テラスコープ)の排出量計算・削減のソフトウェア機能について解説します。
目次
GHGプロトコルは温室効果ガスの算定や報告に関する共通基準を国際的に定めたものです。
世界環境経済人協議会(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)と、米国のシンクタンク世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)によって1998年に共同で設立されました。
(参照:環境省)
GHGプロトコルは温室効果ガス(Green House Gas)の頭文字を取った略称です。企業が事業活動の中で行う原材料調達、工場生産、物流、廃棄やリサイクルなどの工程で排出する温室効果ガスを3つの区分ごとに分類分けして算出します。3つの区分はScope1~3と呼ばれ、以下のように分けられています。
Scope1
企業が生産活動を行う中で直接的に排出する温室効果ガス。
工場で使用した燃料や、事務所で使う空調設備などから出る二酸化炭素などが含まれます。
Scope2
Scope1に対して、生産活動の中で間接的に排出する温室効果ガス。
工場で設備を動かすための電力や熱や蒸気の購入先で発生した温室効果ガスが含まれます。
Scope3
企業の事業活動で排出する温室効果ガスで、Scope1と2に含まれないその他の温室効果ガス。
例えば原材料の生産や製品の運搬、製品の使用や廃棄などが含まれます。
「温対法」とは日本政府が国内の企業に対して、温室効果ガスの排出量を国に報告する義務を定めた法律です。
GHGプロトコルが国際的な基準に対して、温対法は日本国内で定められたルールという違いがあります。
正式名称は「地球温暖化対策の推進に関する法律」といい、「地球温暖化対策推進法」や「温対法」と略して呼ばれることがあります。
温対法は1997年に開催されたCOP3で取り決められた京都議定書をきっかけに制定されました。
地球温暖化対策に国や企業、国民が一丸になって取り組むことが目的で、一定以上の温室効果ガスを排出する事業者が集計して公表するルールが定められています。
温対法とGHGプロトコルは、温室効果ガスの算定方法にも違いがあります。
GHGプロトコルが物流や廃棄業者など社外取引先まで対象にしていたのに対して、温対法では企業自体が発生する温室効果ガスを対象にしています。
またGHGプロトコルが温室効果ガスをScope1から3で分類分けしていたのに対して、温対法ではエネルギー起源の二酸化炭素か、それ以外の温室効果ガスで分類分けします。
エネルギー起源CO2
燃料の使用又は他人から供給された電気もしくは熱の使用に伴い排出されるCO₂
それ以外の温室効果ガス
メタンや一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六ふっ化硫黄、三ふっ化窒素が対象
GHGプロトコルはScope1から3に分類分けして、活動量や排出係数をもとに温室効果ガスを算定します。
活動量とは物流工程であれば運送距離にあたり、排出係数はトラックなどの燃費(1キロあたりのCO2排出量)が該当します。
算定の流れはおおまかに以下の通りです。
ステップ①:算定範囲を決める
最初のステップでは事業活動を工程ごとに分類分けして算定を行う準備をします。
ここでいう工程はサプライチェーンを含めた間接的な算定まで考慮する必要があります。
例えば携帯電話を製造・販売するメーカーであればおおまかに以下の工程が考えられます。
①原材料調達
②製品の製造・輸送・使用
③廃棄・リサイクル
ステップ②:温室効果ガスの種類を決める
二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボンなど排出する温室効果ガスごとに算出します。
ステップ③:算定に使うデータを入手する
算定に必要な活動量データを収集します。
収集方法には直接測定と間接測定があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
・直接測定:電力やエネルギー消費量を実測値で計測する。正確な算定ができるがデータ収集に手間がかかる。
・間接測定:電気やエネルギー使用量を推定値を使って求める。手間はかからないが算定精度は落ちる。
ステップ④:温室効果ガスを算定する
ステップ③で収集したデータを計算式にあてはめて温室効果ガスを算定します。
計算式はGHGプロトコルが定義する「活動量×排出原単位」を用います。
Scope1から3を合計した排出量をサプライチェーン排出量と呼びます。
ステップ⑤:定期報告書などにまとめる
算定した結果をもとに定期報告書などにまとめて提出します。
報告書は自己報告する場合と、第三者期間に認証を受ける方法があります。
具体的な事例として環境省が紹介するGHG排出量の計算事例を紹介します。
表:建設会社A社の算出事例
購入物品 |
サプライヤー |
購入数量(kg) |
サプライヤー固有 排出係数 |
セメント |
サプライヤーC |
200,000 |
0.15 |
壁土 |
サプライヤーD |
600,000 |
0.1 |
塗料 |
サプライヤーE |
200,000 |
0.1 |
材木 |
サプライヤーF |
100,000 |
0.25 |
コンクリート |
サプライヤーG |
50,000 |
0.2 |
A 社の購入物品の総排出量:
Σ(購入物品の数量× 購入物品又はサービスのサプライヤー固有製品排出係数)
=(200,000×0.15) + (600,000×0.1) + (200,000×0.1) + (100,000×0.25) + (50,000×0.2)
= 145,000 kgCO2e
(参考元:(J)-calculation_guidance.pdf (env.go.jp))
本事例は建設会社が購入した原材料より排出するCO2量を算出する内容となっています。
それでは実際のステップにおける作業内容を解説します。
ステップ①:算定範囲を決める | ステップ②:温室効果ガスの種類を決める
今回の事例では原材料調達工程を対象としてCO2排出量を算出しています。
ステップ③:算定に使うデータを入手する
続いて算定に必要な活動量を求めます。
サプライヤーより入手可能な限りの活動量を収集します。
・電気、燃料使用量
・原材料の重量、体積
・輸送距離
・排出した廃棄物量
入手するデータが不足している場合は二次データを組み合わせてもよい。
ステップ④:排出係数
活動量を収集したら続いて排出係数を求めます。
必要な排出係数は材料の輸送に使われる燃料の排出係数や、材料の生産で発生する廃棄物の排出係数などが必要です。
排出係数を求めるにはサプライヤーから提供される一次データか、データベースなどの二次データを利用する方法があります。
データベースにはGHG プロトコルのウェブサイトや、 IPCC ガイドライン(2006)をなどがあります。
最後にこれまで紹介したGHGプロトコル、温対法と同様の規格をいくつか紹介します。
省エネ法は正式名称は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」といい、化石燃料由来の燃料や電気を効率よく使用するために制定された法律です。
省エネ法の特徴として「直接規制」と「間接規定」の2種類で規定が分かれている点があります。
直接規定
一定以上のエネルギーを使う製造業や運輸業などが対象で、選任管理者がエネルギー使用量や計画書を提出します。
間接規定
事業者が直接使用するエネルギーではなく、エネルギーを使用する機器の効率を上げて、消費者が使う電力を削減します。
省エネ法ではもともと化石燃料由来ではない太陽光や風力などの自然エネルギーは対象になりませんでしたが、2023年の法改正により対象となりました。
法改正ではさらに一定規模以上のエネルギーを使用する事業者に対して、非化石エネルギーへの転換や電気使用量の報告期間変更などが盛り込まれました。
GHGプロトコルやISOによる算定ガイドラインなどの国際的な温室効果ガス排出量基準に対して、国内におけるガイドラインとして作成されたのが「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」です。
国内事業者向けにGHGプロトコルなど国際基準を利用しやすく解釈などを加えたガイドラインになっています。
ベースの考え方はGHGプロトコルと同様に、サプライチェーン全体の排出量を算出するためにScope1から3を求めていきます。
Scope3のカテゴリは以下の表のように分類分けしています。
1 |
購入した製品・サービス |
原材料・部品、仕入商品・販売に係る資材等が製造されるまでの活動に伴う排出 |
2 |
資本財 |
自社の資本財の建設・製造に伴う排出 |
3 |
Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動 |
他者から調達している燃料の調達、電気や熱等の発電等に必要な燃料の調達に伴う排出 |
4 |
輸送、配送(上流) |
①報告対象年度に購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流に伴う排出②報告対象年度に購入した①以外の物流サービスに伴う排出 |
5 |
事業から出る廃棄物 |
自社で発生した廃棄物の輸送、処理に伴う排出 |
6 |
出張 |
従業員の出張に伴う排出 |
7 |
雇用者の通勤 |
従業員が事業所に通勤する際の移動に伴う排出 |
8 |
リース資産(上流) |
自社が賃借しているリース資産の操業に伴 |
9 |
輸送、配送(下流) |
自社が販売した製品の最終消費者までの物流に伴う排出 |
10 |
販売した製品の加工 |
事業者による中間製品の加工に伴う排出 |
11 |
販売した製品の使用 |
使用者(消費者・事業者)による製品の使用に伴う排出 |
12 |
販売した製品の廃棄 |
使用者(消費者・事業者)による製品の廃棄時の処理に伴う排出 |
13 |
リース資産(下流) |
賃貸しているリース資産の運用に伴う排出 |
14 |
フランチャイズ |
フランチャイズ加盟者における排出 |
15 |
投資 |
投資の運用に関連する排出 |
その他 |
従業員や消費者の日常生活に関する排出等 |
ISSBはサステナビリティの国際基準統一を目的として設置された審議会です。
「International Sustainability Standards Board」の頭文字を取った略語で、国際サステナビリティ基準審議会と訳されます。
ISSB設立の背景には様々なサステナビリティ基準(SASB基準、GRI基準、国際統合報告フレームワークなど)が混在し、ルールが統一されていないことがありました。
ISSBの基準は「IFRSサステナビリティ開示基準」と呼ばれ、「S1]「S2」のカテゴリで分類分けされています。
S1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」
投資家などが財務諸表を利用する際に、サステナビリティに関する影響評価を判断できることを目的としています。
企業がどのようにサステナビリティに関するリスクを管理しているか、短・中・長期的な関わりを計画しているかなどを開示します。
S2「気候関連開示」
企業の気候変動に対するリスクや機会に関する情報や、財務状況・キャッシュフローに対する影響などを開示します。
今後考えられるいくつかの気候変動のパターンを、シナリオ分析に基づいて情報開示が必要となります。
SBTiは企業が取り組むGHGガス排出量削減を開示し社会に訴求する目的で定められ、国内の400以上の企業が参加しています。
CBT(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)や国連グローバルコンパクトなど4つの国際的な団体で運営されています。
国際的な組織がかかわっていることが公平性が高いと考えられ多くの賛同企業を集める理由となっています。
企業がSBTiに認定されるにはパリ協定のGHGガス排出量削減目標をクリアできる目標の設定や、GHGプロトコルに基づく排出量算定を取り入れる必要があります。
目標設定を行ったら申請書を用意して、SBT事務局へ提出して審査を受けます。
認定が通った後は継続的に排出量削減の進捗を年に1回以上開示する必要があります。
認定を得ることでステークホルダーからの信頼感や、社会的な評価の向上などに繋がるため取り組む企業は増加しています。
Terrascope(テラスコープ)の脱炭素化プラットフォーム・システムは、GHG排出量計算・削減をサポートする機能と、サステナビリティ専門家やカーボンデータ分析家のコンサルティングを提供しています。
下記でそれぞれのツール機能の特徴・ポイントをご紹介します。
脱炭素化の取り組みの第1ステップである排出量データの管理は、膨大なデータ処理や不足データの取り扱いなどに企業は悩まされます。
一方で、Terrascopeのシステムは様々な形式のデータを、手動に比べて約5倍の速度で処理ができた事例もあります。
またデータの一部が不足している場合に、AIを活用してサプライチェーン排出量の上流・下流のギャップを埋めることが可能です。
特に算出が難しい上流側のサプライヤーデータは、製品を構成部品レベルに分解して排出量を算定できます。
こうして作成したデータはプロファイリング機能により、妥当性を評価することができます。
収集したGHG排出量データをもとに効果的な排出量削減を進めるためには、排出要因を掘り下げて分析すること重要です。
Terrascopeは独自の高精度の手法で、スコープ1、2、3の排出量に包括的に分類分けできます。
さらに企業のバリューチェーンにおける排出量の分類分けで、複数の国や事業、工場、プロセスごとに分析して対策すべき優先度の高い箇所を明らかにできます。
またサプライヤーの排出量データを効率的に収集できる「カーボンドライバーツリー」によって、シームレスにデータ送信が可能になります。
排出量データの分析が完了すると、次に効果的に削減を進めるための計画立案・実施・管理が必要となります。
効果的な削減計画の立案のためにTerrascopeには「what-if」シナリオを構築するシミュレーション手法があります。
シミュレーションによって優先的に取り組みが必要なセクターを明らかにし、どこから対策を進めるべきか「見える化」できます。
続いて削減目標を設定して、シナリオを作成します。年度ごとの中間目標値を設定し、企業の脱炭素化の目標へ導く気候シナリオに統合します。そして作成した削減計画の遂行をモニタリングして進捗状況を評価します。
独自のアクティビティリネージ機能は排出量測定の前年度変化要因を解析し、データのアプローチ、データ範囲、データ粒度、または使用されるEFの不一致を明らかにします。
さらに社外関係者への情報開示では、Terrascope独自のプラットフォームを用いて専用レポートを作成できます。
(Terrascopeの機能詳細:プラットフォーム紹介)
テラスコープは、機能の無料デモやご相談をお受けしていますので、下記フォームからお問合せください。
Terrascope Japanの担当者が、各種システム機能や企業の脱炭素化の取り組み事例のご紹介、まずはお気軽なご相談などにご対応させて頂きます。