2024年6月27日、Terrascepeシンガポール本社 CEOのMaya Hariによるご挨拶と、同じくCCOのフェリペによる脱炭素化の国際的な傾向と企業の課題についての講演を皮切りに、このウェビナーは開幕しました。
農林水産省の小田様をお迎えし、「みどりの食料システム戦略」の取り組みについて基調講演をいただきました。
また、テラスコープをお使いいただいている日本を代表する企業、日本テトラパック、三菱食品、ローソン、富士通より、脱炭素化に取り組んでいる事例やサステナ経営についてお話しいただきました。
サプライチェーン全体のGHG排出量、特にScope3の測定、削減に対する現状や課題、今後の展望など、すぐに皆様のお役に立てそうな内容が飛び交いました。今回のレポートでは、講演の要約のみになりますが、最前線の情報をお届けします。
またこちらより、ウェビナーのオンデマンド動画と投影資料をご覧いただけます。
タイトル:将来を見据えた脱炭素化がもたらすビジネスの継続と拡大
~国内外の動向と事例に学ぶ:GHG排出量の測定・分析・削減をビジネスへつなげる~
開催日時:2024年6月27日(木)15~17時
主 催:Terrascope Japan株式会社
協 力:富士通株式会社 株式会社日本食糧新聞社
目次
- ご挨拶(Terrascope Pte.Ltd. CEO Maya Hari)
- オープニング(Terrascope Pte.Ltd. CCO Felipe Daguila)
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基調講演
(農林水産省 みどりの食料システム戦略グループ 小田雅幸氏)
- 事例セッション1(日本テトラパック株式会社 鍛治葉子氏)
- 事例セッション2(三菱食品株式会社 橋本 公尚氏、株式会社ローソン 鈴木 一十三氏)
- ビジネスセッション(富士通株式会社 古川淳一氏)
- クロージング(Terrascope Japan株式会社 代表 廣田達樹)
ご挨拶
Terrascope Pte.Ltd. CEO Maya Hari
- Terrascopeは脱炭素のSaaSプラットフォームで、大企業がGHG排出量を正確に測定し、削減するためのデジタルツールを提供しています。プラットフォームはデータサイエンスや機械学習を活用し、大企業が排出量を削減するためのアクションを導きます。
- 世界中で標準化された報告が求められ、企業は規制当局や投資家、顧客から環境への影響を開示するよう圧力を受けています。
- 日本は2030年までに排出量を46%削減し、2050年までにネットゼロを達成する目標を掲げています。APACで気候変動目標の設定と開示をリードしているのは、日本の上場企業です。
- 排出量データの収集と測定はビジネスにおいて必要不可欠であり、Terrascopeのようなテクノロジー企業がその実現に貢献します。
- 皆様がこのウェビナーを通じて脱炭素化の理解を深め、課題に取り組む意欲を持っていただければと願っています。
オープニング
世界的な脱炭素化の流れと企業が取り組むべき課題
Terrascope Pte.Ltd. CCO(Chief Customer Officer) Felipe Daguila
私たちから見える5つの世界的なトレンドに焦点を当てお話しします。持続可能性や気候変動への取り組みは、規制対応や顧客への情報提供、新たな価値創造の機会をもたらします。規制、開示については、ヨーロッパから非常に厳しい規制の流れが来ています。
1. ネットゼロへの取り組み
- 排出量データのトラッキングと収集が重要であり、最初のデータが完璧でないことを理解し、早期に取り組む必要があります。
- 測定後、排出量を減らすためにサプライヤー変更や梱包方法の改善などの手段を講じる必要があります。
- 研究開発段階から排出量を考慮し、新製品の価値創造を行うことにより大きなインパクトを作ることができます。
2. ESGレポーティングの複雑さ
- ESG実務家の87%は、新しい規制への適応、報告に難しさを感じています。
- 98%がデータの正確性に自信があるものの、83%はデータ収集の複雑さに直面しています。
- ESGに適合し、脱炭素化を実現するためには、必要条件と組織目標との整合性が非常に重要です。
3. 自然の影響の数値化
- 気候変動シナリオのシミュレーションし、気温が2度上昇した場合、炭素価格が上昇によるビジネスへの影響を考える必要があります。
- 気温が4度上昇することによる水不足など、極端なシナリオを考慮し、地球の状態とビジネスを密接に結びつけることが重要です。
4. ESGに取り組むための3つのプラットフォーム
- 企業は特定のソリューションに飛びつく前に、ESGプラットフォーム、カーボンプラットフォーム、環境プラットフォームのどの領域を狙うのか戦略を深掘りする必要があります。
- ESGプラットフォームは、環境、社会、行政という広範囲をカバーするものです。
- 脱炭素化を実現するためには、カーボンプラットフォームが必要で、カーボンやスコープ1、2、3について深く掘り下げる必要があります。
5. 企業のニーズと規制対応
- 二酸化炭素排出量の測定方法は、3つあります。支出ベース、活動量ベース、ハイブリット方式です。重点を置くところを特定し、毎年サイクルを繰り返し調整することが大切です。
- 持続可能性、気候変動、ESGに取り組むなら、完璧さよりも前に進み、規制対応だけでなく、顧客への情報提供や価値創造の機会を逃さないことが重要です。
基調講演
持続可能な食料システムの構築に向けて 〜みどりの食料システム戦略による取り組み〜
農林水産省 大臣官房 みどりの食料システム戦略グループ 課長補佐
小田 雅幸 氏
みどりの食料システム戦略を策定した背景や課題として、気候変動・大規模自然災害の増加、生産基盤の脆弱化、サプライチェーンの脆弱性などを挙げました。日本の農林水産分野のGHG排出量は、CO2換算で総排出量の4.2%と、世界と比べてその割合は小さいものの、その7割が水田や家畜、肥料など農業特有の活動に由来しています。
同戦略の特徴として、食料システムの考えを取り込み、資材・エネルギー、生産、加工・流通、消費の各段階で生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現します。直近の動きとしては、食料・農業・農村基本法の一部を改正し、農林水産業が環境に負荷を与えることを認識し、基本理念として環境と調和のとれた食料システムの確立を新たに位置付けました。
脱炭素を含めた環境負荷低減の施策として、同省の全ての事業において最低限行うべき取り組みの実践を要件とするクロスコンプライアンスの導入、「みえるらべる」の愛称で、生産者等の努力を消費者等に伝えていく「見える化」の取り組み、温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして国が認証し、民間資金を呼び込む取引を可能とするJ-クレジット制度の農林水産分野における推進事例の紹介が報告されました。
事例セッション1
GHG排出量の把握と削減がもたらすビジネスへのインパクト
日本テトラパック株式会社 執行役員マーケティングディレクター
鍛治 葉子 氏
Terrascope Pte.Ltd. サステナビリティアドバイザー
小木曽 麻里
ビジネス概要と課題
- 日本テトラパックは、飲料・食品用紙容器の充填包装システム、食品加工処理機器、アイスクリームやチーズなどの製造機器やサービスを提供するトータルシステムサプライヤーです。
- 食料システムは世界のGHG排出量の3分の1以上を占めており、GHG排出量の削減が必要です。
GHG排出量削減の取り組み:
- テトラパック・グループの目標は、2050年までにバリューチェーン全体でネットゼロを達成することです。
- 2010年から2020年に16%の成長とバリューチェーン全体で19%のGHG排出量削減を達成しています。
- 紙容器の再生可能資源比率を増やすために、サトウキビ由来のポリエチレンの使用を推進し、日本の御殿場工場でも植物由来ポリエチレンのコーティングを開始しました。ヨーロッパでは新しい包材として、常温保存可能な紙容器に使用されるアルミ層の代わりに紙繊維製バリアを使用したものを上市しています。
GHG排出量計測のきっかけと課題:
- 1986年に最初のLCA実施、2019年にCarbon Trust社の認証を受けました。
- 近年はリサイクルペットなどの新しい容器も出ているため、第三者機関とLCAを進めています。
- Terrascopeとのパートナーシップにより、容器単体のCO2排出量換算を迅速に実施できました。
新たな発見とポジティブな効果
- 植物由来ポリエチレン包材の有効性が確認され、容器単体での比較において、リサイクルペット100%容器と比較して40%程度のCO2削減が実現できることが確認されました。
- 新しい視点から顧客への提案活動を行うことができています。
今後の展望
- 韓国でも同様の取り組みを展開予定です。
- 顧客の製造工場でのCO2排出量、水使用量、ウエストの削減を提案し、持続可能なビジネスを目指します。
事例セッション2
サプライチェーンのGHG排出量の把握・課題・展望
三菱食品株式会社 経営企画本部 サステナビリティグループ グループマネージャー
橋本 公尚 氏
株式会社ローソン 理事執行役員SDGs推進室長
鈴木 一十三 氏
Terrascope Japan株式会社 ビジネス ディベロップメント マネージャー
小林 正
Scope3を含めた排出量を測定、公開することになったきっかけ
三菱食品(MSK):中間流通業としてサプライチェーン全体のGHG排出量を可視化し、メーカー様や小売業様に問題提起したかったためです。
ローソン(LWS):安心して暮らせる元気な地球を次世代の子どもたちに残すため、2006年からCO2排出量の開示を実施しています。
Scope 3の計測の難しさ:
MSK:各カテゴリーと事業の紐付けが難しく、複数部署からのデータ収集が大変でした。
LWS:活動量の把握が難しく、取得できる一次データに制限があることが課題です。
今後の展望
MSK:低炭素な商品の供給を目指し、小売業様から「三菱食品を通せば低炭素で商品が届けられる」と選んでもらえる存在になりたいです。またデータを共有する仲間を拡大し、GHG排出量削減に向けて、サプライチェーン全体の取り組みを活性化したいと考えています。
LWS:国産の原材料の使用や地産地消を進めることで、輸送に伴う排出量の削減などに寄与したいと考えています。今後、一層算定の精緻化に努めると共に、排出量削減に取り組んでいきます。
ビジネスセッション
富士通のサステナ経営を支えるESGマネージメントプラットフォームとその有用性
富士通株式会社 Uvance Sustainable Transformation Division
古川 淳一氏
背景
- 経営者の80%がサステナビリティをトップ5の優先課題と認識する一方、具体的な成果を出している企業は26%にとどまっています。
- 成功している企業の特徴として、組織の目的明確化、戦略の具体化、データ活用の成熟度向上、外部組織とのデータ連携の推進が挙げられます。
富士通のサステナビリティ経営
- 富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にする」という目的を持っています。
- ESGマネージメントプラットフォームを活用し、財務データと非財務データの相関を分析し、経営判断に活かしています。サプライチェーン全体でのGHG排出量の可視化を推進しています。
今後の展望
- 1989年に環境委員会を設置。2021年にSBTのネットゼロ認定を受け、2030年までに事業活動でのGHG排出量を実質ゼロに、2040年にはバリューチェーン全体でネットゼロを目指しています。
- 富士通のクライメート&エナジービジョンの紹介と気候変動への適応策推進。
- 財務および非財務データの活用と分析により、持続可能な経営の実現に向けた継続的な取り組みを行っていきます。
- 富士通はESGマネージメントプラットフォームを通じて、お客様の企業価値向上と社会課題の解決に取り組んでいる。
クロージング
GHG排出量の把握と削減がもたらすビジネスへのインパクト
Terrascope Japan株式会社 代表
廣田 達樹
脱炭素化の取り組み概要
- 世界198カ国の各々で法規制やポリシーがあり、6273ポリシーが存在していると言われています。食では輸入への依存も高いので、海外の動きを理解することも大切です。
- 企業活動が排出量の80%を占めるため、企業の責任は大きいです。
- 2019年から2022年にかけて、環境や社会に与える影響を意識する消費者が15%増加しているため、企業も対応する必要があります。
課題
- サプライチェーンの複雑性、農業特有の課題(例:メタン排出)、エネルギー使用、廃棄物(フードロス)、規制対応など、多岐にわたる課題が存在しています。
- 内政化の進展、データの可視化、社員教育、サプライヤーとの協調が成功の鍵です。
まとめ
- オバマ氏の言葉「私たちは気候変動の影響を感じる最初の世代であり、気候変動に対して何かができる最後の世代です。」を引用。
- ガソリン車からEVへの乗り換え、食生活の改善(肉の摂取量減少)など、個人的な取り組みを紹介する中で、脱炭素化が身近なものであることを示しました。
- 小さな行動が大きな変化をもたらすことを強調し、共に脱炭素の取り組みを進める呼びかけました。