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気候開示

11 17, 2023

サプライチェーン排出量とは?算定方法や義務化の流れ、取組み事例を解説

「脱炭素化」や環境を意識したサステナブルな企業の取組みが重要度を増す中で、大手企業を中心にCO2削減などの「サプライチェーン排出量」の算定・削減の事例がスタンダードになり、算定や削減における課題も表出。そもそもサプライチェーン排出量とは何か?義務化の可能性や算定方法・削減の具体的な事例をご紹介します。

サプライチェーン排出量とは?算定方法・義務化・事例を解説

世界中そして日本国内においても「脱炭素化」や環境を意識したサステナブルな企業の取組みが重要度を増す中で、一部の大手企業を中心として二酸化炭素削減などの「サプライチェーン排出量」の算定・削減の事例がスタンダードになっています。
一方で適切な分析・算定や効果的な削減の取組みにおける課題も表出するようになっています。
今回はそもそもサプライチェーン排出量とは何か?義務化の可能性や算定方法・削減の具体的な事例をご紹介します。

 


目次

  1. サプライチェーン排出量とは?
  2. ライフサイクルアセスメント(LCA)との違い
  3. サプライチェーン排出量の算定が必要な理由・メリット
  4. サプライチェーン排出量の開示の義務化について
  5. サプライチェーン排出量の算定方法
  6. 環境省が公開する企業の排出量算定・削減の事例
  7. Terrascopeのサプライチェーン排出量算定と削減事例

 

 

サプライチェーン排出量とは?

サプライチェーン排出量とは、企業が行う事業活動で排出されるすべての温室効果ガス排出量を指します。
環境省が示すサプライチェーン排出量の定義は、「事業者⾃らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指す。つまり、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、⼀連の流れ全体から発⽣する温室効果ガス排出量のこと」とされています。
つまり自社の事業活動に限らずに、原材料メーカーや輸送業者などが排出する間接的な温室効果ガスも対象となります。

サプライチェーン排出量はスコープ1、スコープ2、スコープ3の合計です。
それぞれの排出量は以下のように分けられています。

 

  • スコープ1
    自社が直接使用した燃料の燃焼などにより発生した温室効果ガス

  • スコープ2
    自社で使用した電気や熱、蒸気を生成するために発電会社などが発生させた温室効果ガス

  • スコープ3
    スコープ1、スコープ2以外で他社で間接的に発生した温室効果ガス

 

スコープ1 2 3 の排出量と違い

 

例えば一般的なメーカーであれば、スコープ1は自社の工場で製品を生産するときに使った燃料などで発生した温室効果ガスになります。
スコープ2には工場やオフィスなどで使用した電力を、発電会社が発電するときに燃料を燃やして発生した温室効果ガスが入ります。
またスコープ3には、工場で使う原材料を仕入れ先が製造するときに発生させた温室効果ガスや、ユーザーが製品を使用して発生させた温室効果ガスなどが入ります。

(関連ページ:スコープ3の算定が難しい理由とは?Terrascopeの解決策

 

 

ライフサイクルアセスメント(LCA)との違い

サプライチェーン排出量とよく似た言葉に、「ライフサイクルアセスメント(LCA)」がありますが両者は算定対象に差異があります。
サプライチェーン排出量が企業などの組織が算定の対象なのに対して、ライフサイクルアセスメントは製品やサービスが算定対象となります。

そのためサプライチェーン排出量の計算には、ライフサイクルアセスメントには含まれない企業活動から発生する温暖化ガスが対象となります。
例えば「出張カテゴリ」では社員が飛行機や電車で移動したときに排出する温暖化ガス、「資本財カテゴリ」では企業が投資した生産設備から排出される温暖化ガスを算定する必要があります。

サプライチェーン排出量を評価することは、企業活動そのものを管理することに繋がるため、取引先や投資家、消費者など社外関係者へ環境への取り組みをアピールすることに繋がります。
近年は環境問題への企業の取り組みが重要視される傾向が強まっているため、サプライチェーン排出量の算定に取り組む企業が増加しています。

 

 

サプライチェーン排出量の算定が必要な理由・メリット

サプライチェーン排出量の必要性は、世界的な課題である地球温暖化問題が深刻化する中で高まっています。
地球温暖化により近年、気候変動が起こり異常気象による経済的、社会的な損害が増加を続けています。
つまりはサプライチェーン排出量を算出することは、企業が社会的な責任を果たすことに繋がります。
それにより企業はいくつかのメリットを受けることができます。

methods-of-calculating-scope-3-emissions

 

  • 技術革新による企業競争力向上
    温室効果ガスを排出しない製品開発や、材料のリサイクル技術など、他社にはない製品を産み出すことで差別化が可能です。

  • 効果的な温室効果ガス削減
    サプライチェーン排出量の全体イメージを把握できると、どの工場や工程で温室効果ガス削減すると効果が高いのかを把握できます。

  • 社会的に高い信頼性を獲得
    サプライチェーン排出量をCSR報告書や公式ホームページで発表することで、投資家や消費者からの信頼を得ることができます。国内外の投資家の間では、すでに評価基準としてサプライチェーン排出量を評価する動きが現れています。

  • 新たな顧客とのビジネス開拓
    サプライチェーン排出量を開示することで、これまで取引のなかった企業から評価されて、それまでの仕入れ先から切り替えられる可能性があります。

 

 

サプライチェーン排出量の開示の義務化について

現在、JPX日経インデックス400に上場している国内大手企業において、サプライチェーン排出量を開示しているのは約半数とされています。(2022年10月日本取引所調べ)
その中でもScope3排出量の算定には、多くの企業が2次データを利用しており情報の精度に課題があります。
精度を上げるためには、サプライチェーン企業が測定した1次データを利用する必要がありますが、測定には多くのコストや労力がかかるため中小企業などでは対応ができていません。

一方でサプライチェーン排出量の開示義務化が、今後は進む可能性が高まっています。
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表した気候関連開示(S2)の中で、サプライチェーン排出量の開示を各企業に要請することが記されています。
日本国内のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が、日本版S2基準の作成を進めておりサプライチェーン排出量の開示が要求されることになります。
さらには1次データ利用による排出量の算定が必要となることが予想されています。

(参照:日本総合研究所 IFRS気候開示基準とGHG排出実態の把握

 

 

サプライチェーン排出量の算定方法

サプライチェーン排出量の算定は、大きく4つのステップに分かれています。

  • ステップ1: 算定⽬標の設定
    サプライチェーン排出量の全体を把握して、削減する対象を設定するなど目標を定めます。目標設定することで、どの程度の算定精度が必要か決定ができます。
    例えば自社内だけでデータを利用する場合は比較的粗い精度で問題ありませんが、SBTの認定取得のように海外やグループ全体でサプライチェーン排出量を算定する場合は高い精度が必要になります。


  • ステップ2: 算定対象範囲の確認
    サプライチェーン排出量の算定は、原則的にすべてのカテゴリと活動における温室効果ガス排出量を算定します。ただし特定の場合に、算定対象から一部のカテゴリや活動を除外する場合があります。
    例えば企業の事業活動自体にそもそも該当のカテゴリが存在しなかったり、存在はしても極めて少量しか排出量がないなどの場合があります。


  • ステップ3: 算定対象範囲の確認
    サプライチェーンの各活動を、15種類のカテゴリに分類分けします。15種類のカテゴリには原材料調達や資本の取得、製品の輸送や廃棄処理、従業員の通勤や出張、などが含まれます。
    詳しくはこちらの「スコープ3の15カテゴリーと算定方法」をご確認ください。


  • ステップ4: 各カテゴリの算定
    排出量の算定には大きく分けて2種類の方法があります。1つ目は取引先の企業からデータ提供を受ける方法で、2つ目は「活動量×排出原単位」という計算式で求める方法です。
    基本は後者の方法ですが、前者の方法ではサプライヤーの削減活動が排出量低減に反映されるメリットがあります。

 

 

環境省が公開する企業の排出量算定・削減の事例

それでは次に、排出量算定と削減に取り組んだ、環境省が公開している3件の事例をご紹介します。

 

①株式会社大林組

大林組は「地球環境にやさしい」リーディングカンパニーを企業理念として、カーボンニュートラルへの取り組みを積極的に進めることを方針として掲げています。
取り組みの一環として、2005年の京都議定書発効をきっかけとして、自社の温室効果ガス排出量の開示を開始しました。
その後、毎年定期的な算定作業の実施とともに中長期目標達成への取り組みを続けています。

大林組では温室効果ガス排出量の算定は本社環境経営統括室が行い、建設現場でのエネルギーや資材、廃棄物などの排出量データを各部門が収集しています。
一方でサプライチェーン排出量の算定に使う排出量原単位は「LCIデータベース」や「建築物エネルギー消費量調査報告書」などのデータベースを利用しています。
その算定結果ではスコープ3の排出量が全体の約9割を占めていて、中でもカテゴリ1「購入した製品・サービス」44.2%、カテゴリ11「販売した製品の使用」34.47%を占めていることが分かりました。
そのため大林組では低炭素型資材の適用や、ZEBなどの省エネ技術による建物の省エネに取り組んでいます。

今後の課題には排出量の多くを占めるスコープ3の算定範囲や方法があります。
具体的にはデータベースを利用しているため精度的な問題が残っていることや、協力会社の業種や規模などでデータ収集状況に差が発生していることです。

(参照:環境省・取組み事例 株式会社大林組 2022年度

 

②コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社

コカ・コーラ ボトラーズジャパンは国内最大のボトラー社で、コカ・コーラ製品の製造・輸送・販売・回収・リサイクルなどを担当しています。
2030年までにサプライチェーン排出量の削減目標(スコープ1,2において50%削減、スコープ3において30%削減(いずれも2015年比)を目指しています。

コカ・コーラボトラーズジャパンではCSV推進部が、社内の製造・物流・販売機材などの各部門から集まるデータを基に排出量の算定を行っています。
算定の妥当性を第三者機関から審査を受けている特徴があります。
温暖化ガス排出量のうちスコープ3を約85%が占めており、その中でカテゴリ1「購入した製品・サービス」が53%、カテゴリ13「リース資産」が17%となっています。
カテゴリ1の削減取り組みとして、PETボトル製品のサスティナブル素材100%活用を2030年までに達成する予定です。

今後の課題として算定範囲を日本全国へと拡大すること、排出量の算定業務の効率化と高精度化を両立させることを挙げています。

(参照:環境省・取組み事例 コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社 2022年度

 

③花王株式会社

花王は2009年に公表した「花王環境宣言」の中で、製品ライフサイクル全体のCO2排出量と水使用量の削減目標を発表しました。
その後2019年にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」を発表して、その中で2030年までに花王製品の環境フットプリント達成を公表しました。

花王では独自にLCIデータを算定するシステムを導入して、個別製品や全社のCO2排出量を算定しています。製品開発担当者が社内システムを利用して、新規商品のライフサイクルアセスメントを評価する活動を行っています。
全社のCO2排出量の算定では、サプライチェーン排出量のうちカテゴリ1「購入した製品・サービス」が全体の38%、カテゴリ11「販売した製品の使用」が41%を占めています。
そのため製品のコンパクト化、容器の軽量化、詰替え製品の導入などで原材料の低減を実施することや、ユーザーが使用した時の排出量削減のためにすすぎが少ない衣料用洗剤の開発などに取り組んでいます。

今後の課題では、サプライヤーのLCIデータ整備を進めて高精度な算定結果を求めることが挙げられています。
そのためには容易に排出量を算定するツールや、データベースの普及が必要になると考えています。

(参照:環境省・取組み事例 花王株式会社 2022年度


(関連ページ:企業のCO2削減の最新取り組み事例・Terrascopeの計算・削減機能の特徴

 

 

企業の排出量算定の課題

今回紹介した3社の取り組みにおいて共通課題になっているのは、データ収集の効率化や高精度化がハードルとなっていることです。
その解決策として近年注目され、国内外で成功事例が確認されている方法が、専用ツールを利用する方法です。
その一つとして「Terrascope(テラスコープ)」の活用事例を次に解説します。

 

 

Terrascopeのサプライチェーン排出量算定と削減事例

Terrascope(テラスコープ)はスコープ1,2,3の排出量データを包括的に採取する機能や、取引先の製品を構成部品に分解して排出量を算定できる機能を持った脱炭素化のプラットフォームツールです。
データ採取にかかる時間を圧倒的に削減できる上に、データの精度を飛躍的に向上することが可能です。
実際にTerrascopeを利用してサプライチェーン排出量の算定を行った2社の事例を紹介します。

 

①MCアグリアライアンス

MCアグリアライアンスは、三菱商事とOlamの合弁会社で、世界中のサステナブルな農産物を日本国内に流通販売する事業を展開しています。
環境に配慮した製品を提供し続けるためには、将来的に原材料の調達から流通までの温暖化ガス排出量削減の必要性を感じていました。
その中でスコープ3の排出量が全体の85%以上を占めていたため、排出削減のためにはサプライチェーン排出量の算定が重要な課題となっていました。

MCアグリアライアンスはサプライチェーン排出量の算定のために、Terrascopeを導入した結果、様々なメリットを得ることができました。
まずスコープ3排出量の算定が「自然言語処理」と「機械学習」を使用することで、自動的に排出係数を照合することができるようになりました。

また「排出量削減シミュレーション」機能を活用することで、原材料の調達・加工方法を見直せば排出量の大幅な削減が可能だと発見できました。
このように算定機能だけではなく、専門家の知識・コンサルティングを取り入れてサプライチェーン排出量の削減に役立てる点が大きな強みといえます。

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(関連ページ:MCアグリアライアンス: GHG排出データを活用し、将来性のあるサプライチェーンを構築

 

②ポッカ

大手飲料メーカーのポッカはシンガポール、アジア太平洋地域にまたがり事業を展開し、サステナビリティの取り組みに注力する企業でもあります。
スコープ1の排出量削減の活動として、飲料容器の原材料変更による削減などに取り組んできました。
同社は更なる排出量削減のためスコープ3の算定に取り組むことを計画しましたが、複雑な流通経路やサプライチェーン構成を分析できていませんでした。

ポッカはそうした背景から、Terrascopeの採用を決定しました。
Terrascopeによってデータ収集プロセスは約5倍の速度に上昇したうえに、不足部のデータは機械学習によって補完することができました。
算定した排出量は92%以上の高精度を確保し、約5,000SKUの排出量算定をわずか100分で完了させました。
また算定の結果から、ポッカは調達先の農園地域を見直すことで排出量の削減が可能であるという分析結果までも確認できました。

5 times faster Data Ingestion-1

(関連ページ:ポッカ: スコープ3のデータ不足も補完できる製品カーボンフットプリント(CFP)測定

 

上記事例のように、Terrascope(テラスコープ)のプラットフォームでは、排出量の測定、削減計画・目標設定と実行、報告作業の簡素化など各種プロセスをサポートする機能と、サステナビリティ専門家とカーボンデータ分析家のコンサルティングを提供しています。

機能の無料デモや、まずはお気軽なご相談もお受けしていますので、下記フォームからお問合せください。

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