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食品業界における脱炭素化の取り組みの重要性
人の活動を起源とする世界の温室効果ガス総排出において、約3分の1を占めるのが食糧に関わるものです。食糧の生産段階から加工、流通、調理、消費、廃棄に至るまでのサプライチェーンのそれぞれにおいて、温室効果ガスが排出されています。
生産から出荷までの排出量
世界的にみると、そのなかでも排出量の多くを占めるのが生産から出荷までのプロセスです。また、食品ロス及び廃棄物からの排出量も、全体の1割程度を占めています。
日本国内においては、2022年度の温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算で11億3,500万トンであり、そのうち農林産分野の排出量は全排出量の4.2%である4,790万トンです。
食品飲料製造業の排出量に目をむけると1,868万トンであり、これは産業部門におけるエネルギー起源の二酸化炭素排出量の1.6%を占めています。
参照:世界全体と日本の農林産分野の温室効果ガス(GHG)の排出 | 農林水産省
フードマイレージ
輸送に関する排出量に関しては、日本は食料自給率がカロリーベースで約4割と低く、残りを海外からの輸入に依存しているためフードマイレージの把握が有効です。フードマイレージは、食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせて算出されます。
日本の人口1人当たりの輸入食料のフード・マイレージは2010年に6,770トン・kmと試算され、これは韓国の約3倍、フランスの9倍であり、諸外国と比較すると高い水準です。
2000年度のフード・マイレージを基にした推計では、食料輸入に伴う二酸化炭素排出量は1,690万トンであり、国内での食料輸送にともなう排出量900万トンの1.8倍となっています。
参照:
「フード・マイレージ」について | 農林水産省
食料の総輸入量・距離(フード・マイレージ)とその環境に及ぼす負荷に関する考察 | 農林水産政策研究所
食品ロス
食料の流通段階や家庭における食品ロスも課題の1つです。2020年度の日本の食品ロスは年間500万トンを超え、国民一人あたりに換算すると毎日お茶碗1杯の食品を捨てていることに等しくなります。
2021年度の推計では、食品ロスによる温室効果ガス排出量の合計は1,138万トンで、国民一人あたりでは90kgとなりました。食品ロスによる排出量は、家庭部門における用途別二酸化炭素排出量のなかで、照明家電製品、給湯、暖房に次いで大きな量となっています。
食品業界の温室効果ガス排出を算定する際には、食料の生産段階から廃棄に至るまでのサプライチェーン全体がスコープ3として関わってきます。見方を変えれば、食品業界は食料をめぐる全ての段階で温室効果ガス削減に貢献できる可能性があるといえるのです。
参照:食品ロスによる経済損失及び温室効果ガス排出量の推計 | 三菱UFJリサーチ&コンサルティング
食品に関する脱炭素化の戦略/取り組み
農林水産省の「みどりの食料システム戦略」は、農林水産業の二酸化炭素排出ゼロを2050年に実現するとして、2040年までに革新的な技術・生産体系の開発、2050年までに社会実装を目標としています。
調達段階の脱炭素化として掲げられているのが、資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減の推進です。また、生産段階においては、イノベーションによる持続的生産体制の構築を目指すとしています。
加工・流通においては、無理と無駄のないシステム構築を進め、消費段階では環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育を推進するという戦略です。
ここでは、具体的な手法としてカーボンフットプリント制度や脱炭素化技術についてご紹介します。
J-クレジット制度
J-クレジット制度は、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用による温室効果ガス排出削減量や、適切な森林管理による吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。国内の脱炭素化を推進するために、環境省・経済産業省・農林水産省が運営しています。
温室効果ガス削減・吸収に関する技術については、72の方法論ごとに適用範囲や排出量の算定方法、モニタリング方法が定められています。2023年3⽉末時点で、登録されているプロジェクトは477件で、そのうち約3割が農林水産分野のものです。
例として、農業⽤ハウスでのヒートポンプ利用、木質バイオマス加温機導入、市場への電動式車両の導入、食品工場での都市ガスボイラーへの更新などのプロジェクトによりクレジットが創出されています。
クレジット創出者は、省エネ設備導入や再生可能エネルギー活用によるランニングコストの低減効果を得られ、クレジット売却益を投資費用の回収や更なる投資に活用することが可能です。また、温暖化対策に積極的な企業として、差別化・ブランディングにもつながるでしょう。
クレジット購入者は、製品・サービスにかかる温室効果ガス排出量をオフセットできるほか、温対法への報告、CDPやRE100などの海外イニシアチブへの報告にも活用可能です。
売り出しクレジット一覧や今後の入札予定、過去の入札結果などは、J-クレジット制度ホームページに掲載されています。
※Terrascopeは、J-クレジットの申請や取引のサポートサービスは提供しておりません。
カーボンフットプリント制度
カーボンフットプリント(CFP)とは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに⾄るまでを通して排出される温室効果ガス排出量を二酸化炭素換算で算定し、わかりやすく表示する仕組みです。
温室効果ガスの排出削減を推進するには、脱炭素・低炭素製品が選択されるような市場を創り出していく必要があり、製品単位の排出量(CFP)を「⾒える化」する仕組みが不可⽋となっています。
CFPにおいて活用されるのが、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法です。製品やサービスに関係する資源の調達、素材や部品の製造、組立、廃棄に至るまで、ライフサイクル全体からの温室効果ガス排出量が定量的に算定されます。
CFPによる算定結果は、第三者により検証される仕組みになっており、データの信頼性・透明性が確保されています。
参考:フードサプライチェーンにおける脱炭素化技術・可視化 | 農林水産省
関連ページ:カーボンフットプリントとは?計算方法やTerrascope活用企業の事例
脱炭素化技術の導入
生産現場や流通段階における脱炭素化技術のうち、技術の実証や排出削減効果の定量評価が進んでいる例を紹介します。排出削減に取り組む食品事業者が、原材料の調達などサプライチェーンと連携して脱炭素化に取り組む際の参考になるでしょう。
【バイオ炭】
バイオ炭は、木炭や竹炭などの有機物を原料とした炭化物です。バイオ炭の原料となる木材や竹などに含まれる炭素は、そのままでは微生物の活動により分解され二酸化炭素として大気中に放出されます。
しかし、木材や竹などを炭化しバイオ炭として土壌に施用することで、その炭素を土壌に閉じ込め、大気中への放出を減らすことが可能です。また、バイオ炭を施用することで土壌の透水性や保水性、通気性改善などの効果が期待されているほか、人工林・竹林の管理放棄といった問題の解決に役立つといわれています。
【アミノ酸バランス改善飼料】
家畜に与える飼料中のタンパク質やアミノ酸のうち、家畜の体内で余剰となった分は窒素化合物に変換され、糞尿として排せつされます。排せつ物の処理過程において発生するのが、二酸化炭素の265倍の温室効果をもつ一酸化二窒素です。
アミノ酸バランス改善飼料を給餌することにより、家畜体内で利用されないアミノ酸を減らすことができ、温室効果ガス発生を抑制することが可能となります。
従来の飼料を与えた場合と比較した結果、肉の生産量や品質に影響することなく、排泄物処理過程で発生する温室効果ガスを約40%削減できることが確認されました。
参照:アミノ酸バランス改善飼料給与による温室効果ガス削減 | 農研機構
【バイオマスプラスチック製容器包装】
バイオマスプラスチックとは、植物など再生可能な有機資源を原料として作られるプラスチックです。バイオマスプラスチックも燃やせば二酸化炭素が発生しますが、発生量は原料植物が成長にともなって吸収した量を超えることはないため、大気中の二酸化炭素濃度を増やしません。
ただし、原料の生産地における環境負荷や製造時の化石燃料の消費増大につながらないよう、カーボンフットプリントに注意する必要があります。現在、多種多様なバイオマスプラスチックが開発・実用化されており、食品の包装などへの利用が拡大中です。
バイオプラスチック製品は、バイオマスマークによって容易に識別できます。バイオマスマークは、一定以上のバイオマス由来原料を含むなどの条件を満たした生産物を認定する制度で、物流・包装分野での登録件数は2025年1月時点で900件を超えています。
参照:
容器包装のプラスチック資源循環等に資する取組事例集 | 環境省
バイオマスマーク認定商品 | 一般社団法人日本有機資源協会
Terrascopeを活用した食品企業の取り組み事例
Terrascope(テラスコープ)は、国内外の食品業界を含む様々な企業の排出量の計測と削減を支援するSaaSプラットフォームのシステムを提供しています。データサイエンスやAI(特に機械学習)を活用し、スコープ3を含む排出量の高速・高精度の計算、削減計画の策定、施策の実施をサポートし、世界の有数企業で脱炭素化の取り組みを支援しています。
ここでは、Terrascopeを活用し排出量の測定や削減施策に活かしている、食品業界の企業による脱炭素化の取り組み事例をご紹介します。
三菱食品:AIを活用したスコープ3排出量測定の活用事例
総合食品商社の三菱食品は、気候変動に伴う将来的なリスクである炭素価格の導入が、食のサプライチェーンへ大きな影響をもたらすと分析し、持続可能なサプライチェーンの構築を目指し、早期にスコープ3の計測・可視化に取り組んでいました。
当初の課題としては、数千のサプライヤー、製造業者、小売業者に散在する膨大な業務データの収集でした。受発注管理単位のSKUは24万件超で、それぞれ異なる製造方法、保管方法、輸送方法などのメタデータがあり、手作業で処理し公開開示に必要なトレーサビリティを確保することに困難を抱えていました。
その後、Terrascopeを採用することで、AIを活用して24万件超のSKUを類似した約2,000の製品カテゴリに自動分類することが可能となり、スコープ3を含む排出量ベースラインの算出、重要なホットスポットの特定が実現されました。
Terrascopeのデータ管理・取り込み・自動分類などの機能により、業務コストの大幅な削減も可能となり、更に踏み込んだ計測の可能性が期待できるようになっています。
Terrascopeの事例詳細ページ:三菱食品 - AIを活用したスコープ3排出量測定の脱炭素化事例
ポッカ:5倍速・高精度のCFP測定を達成
ポッカはTerrascopeを活用することで、4,980SKUの製品におけるカーボンフットプリント(CFP)の高速度での測定を実現し、脱炭素戦略を推進しています。
以前はスコープ3排出量に関するデータが不足し、サプライチェーン全体の排出量把握が困難でしたが、Terrascopeの活用により不足データをAIで補完し、詳細な排出量分析が可能となりました。
自動化システム・AIを利用した排出量測定により、特に包装や原材料の排出影響を可視化し、排出量削減の可能性を定量化できる成果を得ています。
データ収集とレポート作成に費やされていたチームの時間・リソースを他の重要なタスクに使うことができ、より改善が必要な部分に集中し、サステナブルな未来に向けてより効果的で戦略的な決断を下すことができるようになっています。
Terrascopeの事例詳細ページ:ポッカのCFP測定・脱炭素化の支援事例
MCアグリアライアンス:サプライチェーン排出量を約25%削減した脱炭素事例
食品類を日本に輸入し販売する、三菱商事とOlamの合弁会社であるMCアグリアライアンスは、Terrascopeのシステムとコンサルティングによる、「排出量削減シミュレーション」を活用し、サプライチェーン全体での排出量削減のシナリオを特定しました。これにより、最大25%もの削減可能性を定量化し、持続可能性と事業効率を向上させ、排出量削減だけでなくコスト削減や運営リスクの低減の効果にも繋がっています。
元々、同社の排出量の大部分はサプライチェーン上流で発生しており、加工場所や輸送ルートの影響が不明瞭でした。データの不足と信頼性の欠如が、正確な分析と排出量削減に向けた効率的な行動の妨げとなっていました。
Terrascopeを導入し、スコープ3排出量を細かく算出、シミュレーション機能で加工・輸送の最適化シナリオを分析し、排出量の削減策を特定しました。これにより、削減目標に向けた具体的なロードマップが構築され、再現可能で高精度の排出量測定と報告プロセスを確立しています。
Terrascopeの事例詳細ページ:サプライチェーン排出量の削減・脱炭素化のコンサル支援事例
TerrascopeのCO2排出量計算・削減支援システム
Terrascopeのシステムでは、二酸化炭素排出量の計測や削減施策などの脱炭素化のそれぞれのプロセスをサポートする機能と、サステナビリティ専門家やカーボンデータ分析家のコンサルティングを提供しています。
- AIを活用したデータ管理
- CO2排出量などの測定計算と分析
- 削減計画・目標設定シミュレーション
- 削減施策のモニタリング・レポートの簡素化
機能の無料デモやご相談をお受けしていますので、下記フォームからお問合せください。
Terrascope Japanの担当者が、プラットフォーム・ツールのご紹介、サポート・コンサルについてのご説明や、まずはお気軽な相談などにもご対応させて頂きます。